第四章第四章 戦いの序曲徹が昔の事に耽っていた頃、大介は大会の組み合わせ表を見ていた。表によると、どうやら一回戦はさほど苦労する相手ではなかったらしい。しかし、それでも大介は気を緩める事は無い。 「なぁ、一回戦はあいつ等とやるみたいだ」 「なら楽勝じゃん!一回戦は楽々通過だな」 そう徹が言っているそばから例の二人が来た。 「悪いが、今回は勝たせてもらうぜ」 「今回もどうせ負けるんだろ」 「う、五月蠅いな!大体、今回は今までとは違うんだぞ」 折角デッキを新調したものの、今の一言で半分負けを認めていた。 「ま、頑張れよ。虫けら使い♪」 徹の言っていることにはいつも嫌味が含まれていた。敵を増やすのが得意なタイプだ。今回も、相手を怒らせている。 「本番で恥かいても知らないからな!」 虫けら使い、そう呼ばれた少年はそう言って去っていった。 「まぁまぁ、ゴキブリだってしぶとく生きてんだからいいじゃん」 もう一人の少年はそう言ってフォローしていた。しかし、実際はフォローになっていなかった。二人の少年達はまだ何か話し合っていたが、こうも距離があっては聞こえなかった。 そして、大介と徹も明日の試合を前に帰った。しかし、大介は眠れなかった。それもそのはず、大介にとってはデュエルそのものが楽しみであり、相手を選ばないのだから。そして、まともに寝ることも無く時間は過ぎていった。 「どうだ、今日は絶好調か?」 徹から訊かれた質問に答える気さえなかった。何しろ、2~3時間眠っただけだったのだ。それでも、大介の実力は底が知れない。どんな時でさえ、底を見た者はいない。つまり、実力が無くても運でカバーできる、と言えばいいのか。勝利のために用意されたデュエル、そう言えば聞こえはいいが、ある意味ではまぐれで勝っているとも言える。 「そう言えば、そろそろ始まるな」 「別に、一回戦は楽だろうけどな」 徹がそう言うと、タイミングよく大会が始まった。最初を飾るのは大介達であったために多少は緊張していたようだ。しかし、それで結果が変わるわけでもなかった。 「じゃ、そろそろ始めるか」 そう言ったのは虫けら使いと言われた少年であった。彼は眼鏡をかけていて、虫けらとは遠い存在に見えた。今でも、眼鏡の奥の瞳が輝いていた。そして、彼の隣にももう一人の少年がいた。もう一人の少年は特別変わったところも無く、やんちゃそうな少年であった。 「じゃ、手加減無しで行くぞ」 「こっちだって手加減しないぞ、大地&虫けら」 「貴様、虫けら言うな!何で大地だけ名前なんだ。俺だって名前はあるぞ!」 「悪い悪い。じゃ、行くぞ幸太!」 幸太は怒っていたが、先攻をとることで何とか収まっていた。 「俺の先攻、ドロー!」 手札を見てじっくり考えていた。どうやら頭脳労働が得意なタイプなようだ。だが、デッキの中身は二人とも知っていた。散々、虫けらと言われていたのだから。 「俺はモンスターを1枚裏守備で伏せ、ターンエンド」 「じゃ、次は俺のターン、ドロー!」 そう言って徹は威勢良くカードを引いた。今回のデッキは相当考え込んだらしい。相手は弱い、と散々言いつつも実際は結構楽しんでいた。 「俺はミスティック・ソードマン LV2を召喚。そして、モンスターを攻撃!」 「ニードルワームの効果発動!徹はデッキの上から5枚を捨てなくてはいけない」 「でも、ニードルワームはミスティック・ソードマン Lv2の効果で破壊される。ターンエンド、そしてこの時、ミスティック・ソードマン Lv2のモンスター効果でミスティック・ソードマン Lv4を特殊召喚する!」 わずか一ターン目にしてモンスターのLVを上げたのだ。これには大介も驚きを隠せないようであった。 今さっき始まったこの大会で、大介と徹は色々な相手と闘いぬかなくてはならないことは、当然本人達は分かっている。しかし、彼等の考えているほど甘くなどなかった。 そして、ターンは大地に回った。 「僕のターン、ドロー」 そう言ってカードを引いた。そして、カードを一枚選び、セットした。 「僕は、ダークジェロイドを守備表示で召喚。そして、モンスター効果をミスティック・ソードマン Lv4に使用する。このカードの効果でミスティック・ソードマン Lv4の攻撃力は毎ターン800ポイント下がる。ターンエンド」 これでミスティック・ソードマン Lv4の攻撃力は800ポイント下がり、1100ポイントとなった。 「やっと俺のターンだ!ドロー」 待ちに待った大介のターンだった。もちろん、大介のデッキは変わっていない。いちいちデッキ編成などを嫌う大雑把な性格が、福を呼ぶか不幸を呼ぶかは分からない。 「俺はサファイアドラゴンを召喚!御前等、カードもセットしないのか?サファイアドラゴンで幸太に直接攻撃。そしてカードを一枚伏せ、ターンエンド」 「何で俺ばっか集中してんだよ!大地に贔屓してるだろ!」 「いや、贔屓って言うより、モンスターいないしね……」 「でも、徹はモンスターのいる俺を攻撃したぞ!」 「いいじゃん、どうせ効果を発動できたんだし。Lv上げるには仕方ないだろ、普通……」 「五月蠅い、もういい!ドロー」 そう言ってカードを引いていたが、その手つきは荒々しかった。又徹や大介は怒らせてしまったようだ。もちろん、故意ではなく。 「俺はカードを一枚セット。そして、モンスターを裏守備表示でセット。ターンエンド」 「俺のターン、ドロー。俺は魔法カード、四次元の墓を発動する。このカードの効果で、俺のモンスターはパワーアップするぜ。ミスティック・ソードマン Lv4でモンスターを攻撃!」 大介は四次元の墓を入れているとは思っていなかったらしく、少々驚いていた。 「罠カード発動、生贄封じの仮面!このカードの効果で以後、御前達は生贄召喚が出来なくなる」 「だが、御前のモンスターはやられるぜ。甲虫装甲騎士を破壊」 甲虫装甲騎士は効果を持っていなかったので徹は安心していた。 「ターンエンド、の前に俺が何をするか分かってるよな?ミスティック・ソードマン Lv4を墓地に送り、ミスティック・ソードマン Lv6を特殊召喚する!これで変な呪いも解けた。ターンエンド」 「中々強いな、徹。じゃ、僕もドローさせてもらうよ」 「バカ!敵を褒めてどうする。御前も贔屓されてるからって裏切るのか!」 「贔屓ねぇ……」 もう、否定の声すら上げていなかった。 「カードを一枚伏せ、ターンエンド」 ほとんど何もせず、ただ喚き声に答えているだけだった。 「俺のターンドロー。生贄が無理か・・・面白いことしてくれんな。よし、俺はアームド・ドラゴン Lv3を召喚。カードを一枚伏せ、ターンエンド」 何故かがら空きの幸太を攻撃せず、カードを一枚伏せただけだった。 「大介、御前も俺にびびっているようじゃ駄目だな」 そう幸太は言うものの、大介にだって作はあった。攻撃を誘っていると見せかけ、実は相手に警戒心を作らせているのだ。ここで攻撃されては困る、と言った状況なのだから。 「ドロー。俺はカードを一枚セットしてターンエンド」 「御前にしちゃ大人しいな。どうせ、良いカードが来なかったんだろ?」 「五月蠅い、落ち武者めが」 今の一言で徹は相当頭に来たようだ。自分から振っておいて仕返しをされ、挙句の果てには落ち武者と呼ばれたのだ。それに対し、幸太は結構良い名前だ、と思っているようだ。 「俺のターン、ドロー!俺はフィールド魔法、草原を発動!戦士族の攻撃・守備力200ポイントアップターンエンド」 流石に、徹も罠だとは気づいていた。そして、このカードが意外な警戒心を生んだのは事実となった。明らかに顔付きが先ほどまでとは違う。大介も徹もこのカードが意外な戦力を持つことは知る由も無い。 「俺のターン、ドロー。俺は何もせずターンエンド」 特に何もせず、余裕を見せていたが、次は大介であり、何が起こるか分から無かった。 「よっしゃ、俺のターンドロー。俺はアームド・ドラゴン Lv3の特殊効果でアームド・ドラゴン Lv5を特殊召喚する。カードを一枚伏せ、ターンエンド」 今回も大介は慎重だった。そして、ターンは幸太へと回った。 「俺のターン、ドロー。俺はカードを一枚伏せ、ターンエンド」 そして、時を待つように幸太も。 「じめじめしてるな。ドロー。俺はカードを三枚伏せ、ミスティック・ソードマン Lv6で幸太を攻撃!」 「また俺かよ!まぁいい、御前の馬鹿さに免じて許してやろう。罠カード発動、万能地雷グレイモヤ!」 万能地雷グレイモヤの効果でミスティック・ソードマン Lv6は破壊される。しかし、徹は笑った。 「バーカ、御前の考えなんて分かってるよ。俺は罠カード、物理分身を使うぜ。そして、魔法カード突進でミスティック・ソードマン Lv6の攻撃力をアップさせる。ミラージュトークンはまだ攻撃していないよな?だったら、がら空きの御前に攻撃!」 徹は嘲笑しながら言った。そして、とうとう幸太のフィールドはがら空きになった。 「でも、俺はカードを三枚セットした。まだ一枚使ってないよな?俺は魔法カード、レベル調整を使用する。ミスティック・ソードマン Lv6を特殊召喚。ターンエンド」 大地のターンになった。しかし、彼には主力モンスターや上級モンスターは少ない。彼は自分のターンを何もせずに過した。 「大地、御前には攻撃しないんだから幸太をサポートしないと負けるぞ?でも、もう遅いけどな」 大介の目には輝きがあった。 「俺はアームド・ドラゴン Lv5で幸太を攻撃!俺達の勝ちだ」 大介の言うとおり、デュエルは終了した。やはり、容易に勝ちを収めた大介は徹と喜んでいた。しかし、幸太をなだめるのに時間が掛かったようだったが・・・ 「大介、後徹、運が悪かったわね。次は私達よ」 喜んでいた大介に声をかけたのは深雪だった。徹は思わず言ってしまった。 「俺たちラッキーだな!一回戦はこいつ等、二回戦は深雪だなんて」 徹は後徹と言われた事が気に障ったらしい。わざわざ深雪が相手であることを嫌味にしていた。 「でも、深雪は良いとしても、もう一人いるぞ」 大介も深雪を敵とは思っていないらしい。ただ、こちらは悪気があって言っているわけではない。 「大丈夫だって、こんな女子なんて」 「ある意味、女子だから恐いんじゃないか……」 二人は深雪を相手にしていなかったが、深雪は相当怒っているようだった。二人はそれに気付くか否や走って逃げた。 二人は種族でファンデッキを作っている。しかし、クラスでは更に細かく分別して作っている人が多い。大介はどの竜を使うはまだ分からない。しかし、大介はこの戦いで新たなデッキを得る。それは決まったも同然だった。今まで、勝って楽しむだけの大介が今度はオリジナルと言う言葉を辞書に書き込もうとしていた。それが勝利を導くのか、敗北を導くのは分からない…… |